戸惑いながら、名前を呼ぶ。
雨夜くんはハッとしたようにこちらを向いて、そしていつも通りの笑顔を見せた。
「ごめん、ぼうっとしてた」
その笑顔に、ホッと息を吐く。
ぼうっとしてただけか。雨夜くんでも、そういうときはあるんだな。
勝手に納得していると、雨夜くんが視線を空に移した。
「なんか空、急に暗くなってきたね」
「あ、ほんとだ……」
わたしも空を見上げて、同意する。
電車に乗っているときからどんよりくもっていたけれど、白っぽさがさらに抜けて、黒寄りのグレーに変わってきている。
「雨降っても、折り畳みあるから大丈夫だけど。でも降らないうちに、もうちょっと練習しとこうか」
雨夜くんの提案にうなずき、「お願いします」と一礼をして練習を再開する。
基本は形だけ習得したから、今度は応用編。実際の試合場面を想定した練習だ。
ディフェンスに張り付かれたと仮定して、雨夜くんにパスを出すというパターン。
雨夜くんからパスをもらって、体を回転させてジャンプシュートするパターン。


