「リリィ、気持ちの良い天気だね」

「昨日まであんなに降っていた雨はどこに行ったのかしら」

「リリィが雨ばかりでつまらない、退屈だなんて言うから逃げてしまったのかもね」

「あら、私は雨の匂いも好きよ」

「昨日は頬っぺたが膨らんでいたくせに」

「意地悪ね、ロナウド」

 男爵家は実家の子爵家ほどには広くはないが、庭の薔薇は優秀な庭師のおかげで綺麗に咲き誇っている。
 テラスに据えられたテーブルと椅子はその薔薇を眺める為に置かれたもので、女中が用意してくれたお茶とクッキーを味わいながらロナウドと二人、薔薇の花に残る雨粒がキラキラ輝く様を楽しんでいる。

 ロナウドはもうじき学校に入学する為にこの男爵家を離れる。
 私もロナウドと一緒にいたいが、男子校だ。
 せいぜい婚約者として見送りながら、家庭教師に教わるのが私の務めといえるだろう。

 ロナウドと婚約関係を結んで、私は男爵家に移り住んだ。 もう五年になる。

 妹のロージーは私の婚約を喜んでくれたが、子爵家を離れる時は泣いて縋って大変だった。

『いやだ! リリィねぇさまはずっと私といるって言ったもの!』

『ごめんね、ロージー』

 小さな子供の頃なら言えた言葉がもう言えなくなる事に、妹と離れる寂しさと、ほんの少しの自由を感じた。