甘い毒に溺れ堕ちて

息子の口からも、改めて成見家について教えてもらう。


父親は建築関係の仕事を、華子さんはデイサービスに通い、日々リハビリに励んでいるのだそう。

今日は授業参観の日だったため有休を取ったらしいが、平日は主に藍くん、休日は父親と2人で家事を行っているらしい。



「じいちゃんは大工さんで、この家を1人で建てた。あっちの家も、父さんと協力して作り上げたんだって。けど、5年前に亡くなった」

「お母さんは……?」

「実家に帰った。4年前に」

「帰った、理由は……?」

「……嫁いびり」



藍くんは視線を斜め下に落として呟いた後、フッと自嘲するように笑みをこぼした。



「なんで揃いも揃って時期が被るんだろうなぁ……。別に責める気はないんだけどさ、少しくらいは配慮してくれよと思ったよ。なにも母さんまでめでたい門出の時期を選ばなくてもいいじゃんって」

「……」

「勇雅から聞いたと思うけど、ばあちゃんも母さんもアート系の仕事しててさ。ジャンルは違うんだけど、師弟関係みたいな感じだったらしくて」

「……だから鉛筆使ってるの?」

「そうそう。家中あちこち転がってたもんだからさ。しょっちゅう、これ誰の〜? って声がしてて……」



当時を再現し、懐かしむ藍くん。

自分でも、今突っ込むべきところはそこじゃないと充分わかっている。

でも、そうでもしないと、この胸の痛みに耐えられなかった。



「ショックだよな。じいちゃん……母さんの父親から聞かされた時は、まさかって思ったもん」

「っ……」

「……でも、1番辛かったのは、俺の存在が消えていたこと」



明るみになった謎が、心臓をえぐるように深く突き刺さる。

当事者でない私でさえも、その言葉の意味が、一体何を表しているのか、理解できてしまった。



「長くなるかもしれないけど……聞いてくれる?」

「うん……っ」



覚悟を決めた彼に、口を一文字に結んで頷いた。