追体験アプリ

私は今勢いで自分の身に起こったことを記入したが、本当は先に追体験をさせたい相手の名前を入力するようだ。


こんなのくだらない。


少し気分も良くなったし、消そうかな。


そう思ってカーソルを動かそうと思ったが、途中で思いとどまった。


もしここで相手の名前を入力したらどうなるんだろう?


今日自分の身に起こったことが、本当に相手にも起こるんだろうか?


そんなはずはないと思って含み笑いを浮かべる。


だけどその文面を消すことができなかった。


どうせなら少しだけ使ってみてもいいじゃない?


よくわからないアプリだけれど、どうせ本物じゃないに決まっている。


それなら遊び感覚で使ってみてもいいかもしれない。


「なにせ、憎い相手に復讐できるかもしれないんだもんね」


そうつぶやくと、よいやく恐怖心から憎しみへと感情がシフトされていくようだ。


そうだよ。


私はあいつら3人を憎んでいる。


どうして私がターゲットにならなきゃいけないのか、どうして我慢を続けないといけないのか。


考えれば考えるほど憎らしくなってきて、奥歯を噛み締めた。


「どうせなら、私にやったことを本人にも経験してもらおうかな」


私はそう呟いて、由希の名前を記入したのだった。