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「なんだよまたお前かよ」


夕里子が呆れたような声を出す。


そこまで来て、私はようやく殴られたのは初めてだと感じた。


「こ、今度は先生を呼んできたんだ! せ、先生! こっちです!」


太一がバレバレな演技をして先生を呼ぶふりをしている。


途端に3人は冷めた表情になり私と太一を置いて帰っていってしまった。


「大丈夫? せ、先生っていうのは嘘なんだ。へへっうまいもんだろ?」


3人が帰るまで待ってから太一が駆け寄ってきた。


「あ、立てる?」


手を差し伸べられても私は少しも動かなかった。


由希が私を殴ったとき、他の2人は止めに入らなかった。


それはイジメがエスカレートしたことを知らせる合図のようなものだ。


きっとこれからはイジメの中に暴力が加わることだろう。


そう思うと、途端に笑い声が漏れていた。


その声が自分のものだと判断するのに少し時間が必要だった。


太一が驚いて差し出した手を引っ込める。


それでも私は笑っていた。


終わりだ。


暴力が始まれば、もう私は終わったも同然だ。


あとは一気に転げ落ちていくだけ。


すべてあいつらの言うとおりに従うだけ。


「アハハハハハハハッ!」


どうやっても笑いは止まらずに涙まで出てきた。


いつまでも笑い続けている私を気味悪く思ったのか、太一は逃げ出してしまったのだった。