「井村さんはこんなにいい子なのにな」


黒坂くんはそう言って私の手を握りしめてきた。


男の子に手を握られた経験なんて初めて、指先が触れた瞬間心臓が大きく跳ねていた。


「い、いい子だなんて、そんな」


顔が熱くなって黒坂くんのことを見ていられなくなってうつむく。


しかし黒坂くんはまっすぐに私を見つめていて、全然視線をそらそうとしなかった。


心臓は更に早鐘を打ち始めて、どうすればいいかわからなくなってくる。


少し視線を上げて黒坂くんを見てみると、すぐに視線がぶつかってまたうつむいた。


「大切なことを言うから、ちゃんと聞いて?」


「え?」


そう言われたら顔をあげないわけにはいかなくなってしまう。


私はおずおずと顔をあげて、黒坂くんの鼻の頭あたりを見つめた。


これならどうにか見つめていることができそうだ。


それにしてもきれいな肌。


シミや荒れひとつない。


まるで女の子みたいにモチモチしていそうだ。


鼻筋はスッと通っていてまるでモデルみたい。


黒坂くんの顔に見惚れて大きなため息を吐き出したその時だった。


「俺、井村さんのことが好きだ。付き合ってほしい」


自分の聞き間違いだと思った。


私は大きく目を見開いて今度こそちゃんと黒坂くんを見た。