愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


 母さんが涙を流しながら、俺を抱きしめる。
 母さんの手は、とても暖かかった。

「今更遅いんだよ!! 俺がどんだけ寂しかったと思って……うっ、うっ」
 何もかも遅すぎると思うのに、涙が溢れてくる。愛に飢えていた心が、悲鳴を上げている。母さんからの愛を、どうしようもなく欲している。
 心は愛に飢えすぎて、とっくに満身創痍になっていた。

 本物かどうかも分からない愛なんて受け入れたくない。母さんを許したくなんかない。そう思うのに、俺は「赦さない」ということも、俺を抱きしめる母さんの手を振りほどくこともできなかった。

「うっ、ああああ、ああああぁぁぁ!!」
 俺は母さんの服を掴んで、声が枯れる勢いで泣き叫んだ。

「海里、学費、私が払ってもいいかしら?」
 俺の涙を拭いながら、母さんは囁く。

「いっ、いいけど……母さん、どうやって学費払うの? お金ないのに」
「そうね……。校長先生とか担任の先生にかけあってみるわ。今までのこと全部話して、お金が溜まってから払うんでもいいかって言ってみる」
「えっ」
 思わず声を上げて俺は驚く。
 そんなことをしてくれるなんて思ってなかったから、とてもびっくりした。

「やるだけやってみるわ。海里のために」
「……ありがとう」
 ぎこちない笑顔を作って、俺は言った。

「お礼を言うのは私の方よ、海里。泣いてくれてありがとう。本当に嬉しかったわ」
 母さんは俺の背中をそっと撫でてから、抱擁をやめた。
「フッ。よかったです。本当に俺に払わせるつもりだったら、どうしようかと思いましたよ」
 余裕そうに笑って、零次はいう。

 俺は零次のその顔を見て、ある仮説を思いついた。

「……零次、まさか母さんをここに呼んだのは、こうするのが狙いだったのか?」
「ああ。だってこん中、空だし」
 テーブルの上にあるお年玉袋を俺に見えるように開けて、零次は笑う。
 袋の中には、本当に何も入っていなかった。

「はあ? お前、母さんが払わないっていったらどうするつもりだったんだよ!」
 俺は思わず零次を睨み付けた。

「一昨日の電話の時点で、海里の母さんが悪い人じゃないのは分かったから、そうなることはないと思ってた」
「だからって、なんでそこまでしたんだよ」
 俺は頭を抱えた。
 頭が可笑しい。