「駄々っ子か」
 俺を馬鹿にするみたいに、零次は笑った。
「駄々もこねたくなるよ! だって俺、お前がいなかったら……死んで……っ」
 零次の肩に顔を押し付けて、俺は泣き崩れた。

「ごめんな、助けて」
 俺の耳元で、今にも消えそうな声で、零次は言う。
「え……?」
「こんな酷い結末になるくらいだったら、出会わない方が良かったかもな俺達」
 俺は肩を押して、零次を勢いよく砂浜に押し倒した。

「ふざけんな! そんなこと言うなよ!!」
 俺の涙が、零次の頬に落ちる。
 零次が笑って、俺の頭を撫でる。痛々しくて、見るのも嫌になる程下手な作り笑い。
 ……嘘なの丸わかりなんだよ、バカ。
「……ありがとな、そんな風に言ってくれて」
 その言葉は、俺がかつて零次に向けて言った言葉だった。

 でもその言い方は、俺の言い方とは随分違っていた。

 俺はあの言葉を言った時、未来に希望を持っていた。いや、零次のおかげで未来に希望を持てていた。
 でも零次の今の言い方は、絶望している人の言い方だ。まるで未来に希望なんて一つもないみたいな。
 なんでそんな言い方すんだよ。
 そんな言い方されたら、もう本当に二人で生きる方法がないみたいじゃないか……。
 そうなのか?
 俺達は本当にここで終わりなのか?
 俺達が一緒に生きる方法は、本当に一つも残されていないのか?
 いや、違う。
 そんなことないハズだ。
 考えろ。――考えろ、二人で幸せを掴み取る方法を。
 誰かに助けを求めるのは? 
 俺の母さんは仕事中だから、母さんに電話をかけてもしょうがないよな。でもそれなら一体、誰にかければいいんだ?
 じいちゃんとばあちゃんは車がないからここには来れないし、今更奈緒と美和に頼っても、この状況ではきっとどうにもならない。

 ――ダメだ。思いつかない。

 零次の父親から逃げる方法が、全く思いつかない。
 本当に方法は一つもないのか?
 いや、ある。一つだけ。

「零次、服屋に行こう」
「え? ……まさか海里、変装でもする気か?」
「うん。女装して逃げる」
 俺がそう言うと、零次は鼻で笑った。
「ハッ、アホか。女装なんてしても顔でバレるに決まってるだろ」
「ああもう! うるさいな! やってみなきゃわかんないだろ! 頼むから、少しは自分のために動いてくれよ!!」
 俺の言葉を聞いて、零次はほんの少しだけ目を大きく開けた。

「……俺、監禁をされる前に、お前に会いたかったよ。そうなってたら、自分のために動けたのかもしれないな」

 そう言うと、零次は突然、俺の腹を殴った。

「いった」
 殴られた衝撃で砂浜にものすごい勢いで身体を打ちつける。

 ――バシャンッ‼

 俺が身体を起き上がらせた瞬間、零次が海に飛び込んだ。

「れっ、零次!!」
 俺は慌てて零次の後を追って、海に潜った。

 でも俺は怪我のせいでまともに泳ぐことも出来なくて、すぐに意識を失ってしまった。