「ああ、そうだよ。親父、お前の家によく来てただろ。だから、お前が行く高校知ってたんだよ。お前の父親にでも聞いたんじゃないか? ただ海里に近づくのは、海里か海里の父親かあるいは保証人をしてる奴のいずれかに闇金の子供だとバレないように、入学して半年以上経ってからにしろって言われてたから、それまでは、普通に高校生活を謳歌してた。いや、楽しんでるふりを俺はしてたんだ。好きでもない女と遊んで、欲を満たして」
「……なんでそんなことをしてたんだ」
「どうせ母親みたいに失う可能性があるなら、浅い付き合いだけしようと思ったんだよ。いっただろ。――人が死ぬのが嫌なんだって。だから父親に従った。失うのが怖いからって人もろくに頼れない自分に、そうする以外に選択肢はないと思ったんだ!……虐待の現場に出くわした時、やった!と思った。嘘じゃない。少なくともその時の俺は、本気でお前が虐待されている動画を撮ろうとしてた。お前を助けようなんて、全然考えてなかったんだ」
「だったら、なんで」
それなら見捨てればよかったじゃないか。
動画を撮るのに、専念すればよかったじゃないか。
「俺だって、見捨てられるなら、見て見ぬ振りできるならしたかったよ!!」
零次が大粒の涙を流して言う。
「……虐待の現場を見て、その気持ちが変わったんだ。高校生の子供が皮膚を炙られて、赤ん坊みたいに泣きじゃくる。そんな酷い見るに堪えない地獄絵図のような世界が、そこには広がっていた。その泣きじゃくっていた子供が、自分に見えたんだ。監禁されて自由を奪われて、辛いよって、嫌だよって叫んでた頃の自分に見えたんだ。それで俺はいつの間にか動画を撮るのも忘れて、お前を助けに行っていた。……助けないで動画を撮らないとダメだって、撮らないと殺されるってわかっていたのに、気がついたらそうしていたんだ。俺と違って自由を手に入れてないお前を見て、可哀想だと思ってしまったんだよ。救ってやりたいと思ってしまったんだよ。そんなことをして動画を撮るのをおろそかにしたら、地獄に逆戻りする羽目になると。やっと手に入れた自由を、失うハメになると分かっていたのに」



