「あの、」 呼び止められた気がして、財布から目を離して顔を上げる。ゲンチュウさんの真っ直ぐな瞳に、僕が映っていた。 「……煙草って」 「はい?」 「煙草って、どんくらい気持ちよくなれます?」 顔を覚えあっている仲とはいえ、ゲンチュウさんが話しかけてくれることはこれまで一度もなかった。 これまで交わしたことのある言葉は「レシート要りますか」「いえ」これだけだ。 「煙草って、そんなに効能いいんすかねぇ」 だからその日、僕はとても驚いた。