彼女の実家は元ケーキ屋ということもあり、ネット上にあった実家の番号に何百回といたずら電話や取材の電話がかかってきた。

父は電話線の元を抜いて、傷付いて使えなくなってしまった固定電話の番号を解約することになる。

いつかケーキ屋さんを仕事の合間に再開できたらと残していた固定番号だった。

そのときはラッピングやpopの作成は得意なわたしに任せてなんて言った娘の言葉を思い出す。


一方、男性B、大矢は。

マスコミや野次馬が職場に押し寄せたり、会社に嫌がらせの電話がかかってくることはなかった。

しかし、会社の者たちが彼女のSNSを興味本位や悲しみに暮れている中、覗いてしまう。

1番最初に投稿されていた写真は誰かと手を繋いで映っている写真だった。

おそらく、彼女が撮ったであろう目線から、2人が手を繋いでる部分だけが撮影されていた。

会社にいるものはその写真を見ただけで不倫相手が誰なのか、ほとんどの者が分かったし、固定されたツイートに書かれている❝大さん❞という名前だけでも察しがついた。

彼女が唯一尊敬しており、上司も部下も関係なしに慕われていた男、大矢が着ていそうな好みの服装、肌の色、腕の太さ、あだ名であったからである。

大さんと書かれたあだ名は唯一、彼女だけが大矢を呼ぶときの呼び方であった。

休み明け、会社に出勤した大矢は上司に休んだことを謝罪する。

「……夏暉、社長………きてはる」

彼女が過去に働いていた不動産業の会社はそれ程大きな会社ではなかった。

それ故噂はすぐ広まったし、SNSを利用しない上司たちの耳にも事の重大さが伝わるのも早かった。