〈side:ギルバード〉
「――ギルバード、眠ったか?」
「ああ。今……」
ここは王宮の敷地内にあるノアの離宮だ。彼女を救出してから馬車を走らせてやってきた。公爵邸にしようと思ったが、王宮の方が近いと判断したノアがここへ連れてきた。
「ギル、何か食べた方がいい。食事を」
「……いらない」
「メル嬢が起きるまでそうしているつもりか?」
メルは、今眠ったばかりだ。だが食欲が湧かない。
「俺は無力だな、」
「すまなかったギルバード、俺と陛下が縁談など持ち出さなきゃこんなことにはならなかった」
「俺は守ることができなかったんだ、あの日俺が求婚していたら何か変わっていたかもしれない」
そうだあの日、伝わらなくても求婚すればよかった。
「ギルバード、世間では“傷物”令嬢と婚姻を結ぶのは不幸を招くと言われている。君はそれでも彼女と結婚するのかい?」
「そんなの決まっている、俺は彼女を愛している。傷物だなど言わせない、メルは清らかで美しい。曇りない女性だ」
傷物だなんて言わせるものか。
初めて惚れた女だ……手放すことはない。