「あ〜……」

 私は彼に恋愛感情を抱いていたのだろうか?
 もし、そうなら恋に気づいた瞬間に失恋したということになる。


「メル」


 ギルバート様の声……? もしかして、彼のこと考えていたから幻聴が聞こえてしまったのかもしれない。私がこんなふうになるなんて、パンが作ることができるならいいと思ってたのに。


「……メルちゃん?」


 急にちゃん付けで呼ばれて顔を上げる。


「のっ、ノア様!?」

「ははっ、驚かせてごめんね」

「いえっ……ど、どうしたんですか?」


 私は急いで立ち上がると一歩下がる。


「君に用があったんだ。今いいかな?」

「あっ、ちょっと待っててください、一言言ってきます」


 私はそう言って厨房に顔を出すと、アルくんに声をかけてからノア様のところに戻った。


「すみません、お待たせしました」

「いや、全然。オスマン公爵から話はしてあるから馬車で話そう」

「わかりました」


 私は、頭の中でハテナを浮かべながらも彼について行った。この時、ちゃんと考えてなかった。
 この世界には“魔法”があることも忘れていたんだ――……。