僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「りょ、両親がギャンブル好きなのに何でサッカーできたんですか?」
 俺は顔が火照っているのを悟られたくなくて何でもない感じを装って、箱からキズパッドを一枚とりだした。
「……俺が部費払ってたから。バイトして。まあ部費以外の金は全部とられて生活費とギャンブルの資金にされてたんだけどな」

 紫月さんの足にキズパッドを貼ろうと思って動かしていた手が止まる。

 なんて声を掛ければ良いのかわからなかった。

 紫月さんは今まで何を考えて生きてきたのだろう。
 学生の時から両親のせいで部活とバイトを両立する羽目になって、肩身の狭い想いを味わうのを余儀なくされて。その上、両親が心中して、弟さんが植物状態になって。

「本当、落ちるとこまで落ちたって感じだよな。弟が植物状態になった時は流石に神を呪ったよ。この世界を作ったのは神じゃなくて悪魔だと思った」

 それで神様って呼んでないのか。

「確かに神様はいないのかもしれないです。俺の神様は紫月さんですし」
 紫月さんの足にキズパッドを貼ってから、俺は言った。

「お前よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるな」
 紫月さんが俺を見ながら頬を赤くして言う。どうやら、照れているみたいだ。
「だって紫月さんがいなきゃ死んでましたから」
「やっぱ前言撤回。この世界を作ったのは神なのかも」
「え、どうしてですか?」
 俺は紫月さんの顔を覗き込んで首を傾げた。
「お前に会えたから。両親は死んで弟も植物状態になっちまったけど、お前に会えたのだけは神に感謝だな」
 紫月さんが俺を見ながら笑う。
「紫月さん……。そんな風に言ってくれてありがとうございます」
 ――やっぱり紫月さんは残酷だ。こんなことを言う理由が、俺を弟の代わりだと思っているからなんて。
 それでも礼を言ってこの偽りの愛を受け入れようとする俺は、傍から見れば異常なのだろう。それでも俺には紫月さん以外に頼れる人も、信じられる人もいない。

 ――代わりでもいい。 
 弟の代わりでもいいから、大切にして欲しい。もう傷つきたくない。捨てられたくない。

『――弟の代わりでもいいから、俺を手放さないでいてくださいね、紫月さん』

 俺は心の中でそう言って、紫月さんに笑いかけた。