*


「――花恋?もう着いたよ」


ん?着いた?……あ。


「え!もしかして……私、ずっと寝てた?!」



何言ってんのという顔で頷かれる。

――てことは唯人移動中ずっと暇だったよね……。



「……ごめん」


「いいのいいの。俺の肩に寄りかかっている花恋すっごく可愛かったから」


恥ずかしくて顔が赤くなったのは言うまでもない。



――どういう経緯でこんな会話がうまれたかというと


*


「来週はいよいよ修学旅行だな。そろそろバス座席決めるぞー」


先生の一言でクラスは少し盛り上がる。

できるだけグループでまとまって座らなければいけない。


「夢愛ー、とな――」


「ごめん、春樹(はるき)と約束してある」

隣の座席にしよって言おうとしたのに。

まあ仕方ないよね、春樹は夢愛のこと好きだし隣がいいもんねー。
――夢愛は気づいていないだろうけど。


「りょーかい。じゃあ私は一人席かー」


「……俺の隣の席という選択肢はどこへ?」


「へ?あ、忘、いや、なんでもない」


忘れてたなんて言えない。


「そっか、忘れてたんだね?」


「は、はい……」


「てことは、俺の隣でいいね?」


ん?何故そうなった?……まあ、うるさい男子とかよりはいいけど。

うるさい男子の隣にならない為にここは唯人と隣のほうが安全だな。



――なんて、酷い考えだよね……。



なんてこと考えるようになっちゃったんだろう……と落ち込んで俯く。


「ほら、うるさい奴らの隣は嫌でしょ?」


彼のその一言に驚いて顔を上げる。そして思わず頷く。


「よし、決まりね」




――彼の優しさに甘えちゃったのかな。



*



「花恋ー、どしたのー?」


え?



――あ。


気がつくと顔が赤いまま立ち尽くしていて、クラスメートみんなの注目を浴びていた。



「夢愛ぁぁ」


夢愛に抱きついた……はずだった。


「俺は神崎(かんざき)じゃないぞ」



――え?……ええええええええええ!?!?


急いで距離を取る。クラスメートみんなの前で唯人に抱きつくなんて……。


「恥ずかしくて死にそう」

クラスメートのみんながめっちゃ笑ってる。あ、唯人にも謝らないと――


「唯、……え?」


彼の顔を覗いたら、すごく真っ赤になっていた。


「……ごめんね、注目浴びせちゃって」


私がそう言うと、またみんなに笑いが起こる。



「花恋ー。花城君が真っ赤なのは別の理由だと思うよーっ」

クラスメートの女子が笑いながら教えてくれた。
別の理由?別……わかんない。


私がキョトンとしていると、今度は一軍男子が、


「きっと如月さんが――」


と言いかけた。というか、唯人に口を塞がれている。
……一軍男子くん苦しそうだよ?



「なんでも、ないってさ」


唯人が必死になってるから可愛くて笑っちゃう。


「わ、わかった。わかったから、そろそろ彼の息が――」


「あ」