ピピピピーピピピピー



なんだもう朝か……。


寝癖はそのままにしてリビングへ直行。

リビングには誰もいない。それが如月花恋(きさらぎかれん)には当たり前だった。




『ごめんね花恋、いつもそばにいてあげられなくて』


お母さんの口癖だ。お母さんは仕事が忙しくてなかなか家にいない。

朝は私よりずっと早くに家を出るし、夜帰ってくるのは日付が変わってから。



『ううん、いいの。そんなきにしないで』


私はそう返すしかなかった。



*


「おはよう、花恋」


微笑みながら挨拶してくれたのは、幼稚園からの幼馴染。


「おはよ、夢愛(ゆあ)


「あ、そういえばさ!今日転校生来るんだって」


なんかすごーく嫌な予感したんだけど。まあ、まさかね――



「花恋は嬉しくないだろうけど……男子だって」



……うん。でしょうね。だと思ったよ。


「はぁ……」


「まあまあまあ!それがすっごくイケメンらしいからさ!ね!」


顔がかっこいいとかは心底どうでもいい。でも、夢愛がフォローいれてくれてんだから
落ち込んでられないか……。



「まあ、ちゃんと顔見てからがっかりすることにする」

もうがっかりする前提なのね、と夢愛がツッコミをいれたところでチャイムが鳴った。


*


花城唯人(はなしろゆいと)です。名前はテキトーに呼んでもらって……えっと、趣味は絵を描くこと、です。何か質問があったら言ってください」



第一印象はチャラ男だったのに、自己紹介を聞いてるとそんな感じがしない。



――意外といい奴?



私は昔からうるさい男子たちが嫌いだった。理由は、彼らには悪いけど特にない。
ただただ嫌いだった。



制服が若干――ガチで厳しい風紀委員くらいしか注意しないような程度――乱れてるから勝手にうるさい男子たちと一緒にしていたことに、心のなかでこっそり謝った。



「じゃあ、席は……如月の隣なー」


げ。いくら ほんのすこーし好印象だからってそれは――。


「俺の隣、そんなに嫌?」


「いいいいえ!そ、そんなことないです……」


顔に出てたのかな。思わず自分の頬を触る。


「まあ、嫌いかもしれないけどあと一年もないんだし、よろしく」


「うん、よろしくね」

嫌いなのは否定しないんだ、そういって笑う君につられて笑った。




「――あ、いや、花城君が嫌いなわけじゃないよ。ただ、男子が苦手なだけで……」

特にうるさい男子、と付け加える。


「なんだ、よかった。転校初日から嫌われるようなことしてたのかと思って焦ったー」


「ふふ、大丈夫だよ。――あ、でも制服はもう少しきちんとしてたほうがいいよ」


少しからかうように笑うと、花城君は何故か顔が少し赤くなった。

恥ずかしがる程じゃないよ?と付け加えたが、顔は赤いままだった。



「――おい如月、花城。今は休み時間じゃないんだぞー」

てへ、とポーズをとる私と、さらに顔が赤くなる花城君。



「じゃあ、聞いていなかった二人のためにもう一回言うぞー。再来週から修学旅行があるのは知ってるよな」


知らなかった――というか忘れていた――ので首を横に振ると、先生は呆れたような顔をして続けた。



「明日グループを作ってもらうから今日のうちから考えておくようにー」