「驚いたな、本当にマリアベルなのか?」

「恥ずかしながら本人です、お兄様」

マリアベルはそっと扇子を口元から離して、その顔をレオンハルトへ見せた。
レオンハルトはまじまじとマリアベルを見つめる。心なしかその目が潤んでいるような気がした。

「……なぜ私は今騎士としてここに立っているのか。お陰で感情を納めるのが非常に大変だ。マリアベルがこんなに美しくなって、私は歓喜に叫び抱きしめたいというのに、それも出来ぬ心苦しさよ。やはりマリアベルは誰よりも美しいのだ。私の大事な愛しい妹……!」

さすがはシスコンなレオンハルトである。突拍子もない兄の愛の重さにマリアベルはドン引いた。
幸い周りは人の話声や笑い声でうるさいため、兄のこの言葉も周りに聞こえてはいないだろう。だがこんな人の前で平然と恥ずかしい言葉をつらつらと述べないで頂きたいものである。

引き攣りそうになる顔を必死に堪えるマリアベルに、ジークウェルトはフフッと笑いを零す。

「と、いうわけで中に入ってもいいかな?団長殿」

「あ?……ああそうだったな、妹をよろしく頼む。役得だな、ジー……、ジュード殿。こんなことなら私も貴族として参加すべきだった」

「ハハッ、それでは意味がないでしょう。では行きましょうか、マリアベル嬢」