城のエントランスは、すでに人で溢れかえっていた。
噎せかえるような甘ったるい香水の匂いに顔が歪みかけて、扇子で隠す。
騎士として夜会やパーティーの警護に当たっているときは気にもならなかったのに、なぜか今日はこの匂いが不快でたまらない。

緊張しているからであろうか。
ちらりと横にいるジークウェルトを窺いみれば、朗らかな笑みを浮かべて余裕の表情だ。

(……羨ましい)

どんな状況でも動じない鋼の心が欲しい。
騎士であるという服を脱がされただけで、ここまで自分の心が弱くなってしまっていることが悔しくてたまらない。
もっと強くならなければ、とマリアベルは心の中で誓う。


エントランスから大広間の扉の前には、鎧姿のレオンハルトが立っていた。どうやらレオンハルトは参加者の確認をする任務についているらしく、入場する貴族たちが持っている招待状を確認しては、大広間へ案内している。
ジークウェルトはマリアベルの手を引き、レオンハルトの前まで行くと声をかけた。

「大変お久しぶりですアステリア第二騎士団長殿。ジュード・ファイン、隣国よりお招きいただきました。本日は団長殿のご姉妹であるマリアベル嬢のエスコートを務めさせて頂く機会、大変光栄に思い感謝の想いをお伝えしようとお声かけさせていただきました」

レオンハルトは初め唐突に声をかけられたことで、怪訝な表情を浮かべてジークウェルトを睨んでいた。
しかしマリアベルという名が出たことにより、ジークウェルトの隣にいる女性がマリアベルで、話かけてきた男性がジークウェルトなのだと気付くと、その表情は驚きのものに変わる。

だが今は騎士として任務に当たっているため、大きな声もリアクションも出すことが出来ない。
マリアベルを見ながら口を何回かパクパクとさせたのち、少し咳払いしてなんとか動揺を隠した。