目の前の美麗な男はくつくつと笑った。
ジークウェルトの声よりも低く聞きなれないが、笑い方はいつものジークウェルトでホッと安心する。

「アタシもあのままでは出られないから姿をガラッと変えたわ。粗が出てしまいそうだから今のうちに設定を教えておくわね。ちゃんと覚えておくのよ。アタシの名はジュード・ファイン。隣国の貴族で爵位は、……そう侯爵位。今回は隣国代表としてお招き頂いたのよ」

「はい。ジュード様」

「マリーちゃんとは遠い親戚、アナタのお母さまの従妹がファイン家に嫁いだことから繋がりがある。そのため私たちも顔見知り……、そのため今回パートナーにマリーちゃんが選ばれた、こんなところかしらね。まあここまで詳しく聞いてくる人もいないでしょうけど、一応ね」

マリアベルは頷く。

しかしこの設定は前もって考えていたのだろうか。
いや、少し考えながら話していたから即席なのだろう。
この短時間でここまで決められるとは、やはりジークウェルトは相当頭の回る人なのだとマリアベルは感心する。

「さて、アタシもこの役に慣れないといつもの言葉が出てしまうから、役になりきるわね」

ごほん、とひとつ咳払いすると、ジークウェルトもといジュードは紳士な笑みを浮かべ、マリアベルの前に片手を差し出した。


「さあ参りましょうマリアベル嬢。この手をお取りください」