「……出来たわ」

ジークウェルトの声に、マリアベルはまたゆっくりと目を開けた。

デコルテからスカート部分まで全体的に刺繡が施されたボートネックの淡い紫色のドレス。腕はフレンチスリーブで動きやすく、スカート部分は年齢も考慮してなのか落ち着いたAラインだ。

マリアベルは声にならない。
完成された自分を見つめ、もはや他人を見てるようだった。
けれど自分が動けば鏡の綺麗な女性も同じく動く。紛れもなくこれはマリアベルなのだ。

マリアベルはまじまじと鏡を見続けていた。
ここまで変わるともう面白くて仕方がない。いろんな角度から自分を映して観察している。

そんなマリアベルに聞きなれない低く甘いトーンの声で、名を呼ばれた。


「――マリアベル嬢」

ばっと振り向けば、見知らぬ美麗な男性が立っている。
耳元が隠れるくらいのさらりとしたブロンズの髪に、切れ長の目。黒地に金糸の刺繍が施されたジュストコールに身を包んだその男は、マリアベルに柔らかな笑みを向けていた。

一瞬誰かが部屋に入ってきたのかとドキリとしたが、扉が開いた気配もなかった。加えて先ほどまで後ろにいたはずのジークウェルトの姿はない。それはつまり。

「……ジーク様?」

「そう!驚いた?」

「は、はい。少し」