「あー……、うん。そのことなのだが」

レオンハルトは言葉を濁す。

「なぜ、私なのでしょう」

いきなり団長の専属騎士となるのは、マリアベルには荷が重すぎる。

願ってもみない抜擢ではあるものの、果たして自分にはその任務をこなすことができるのか、マリアベルは不安になり、その表情が少し陰った。

「……彼はね、少し変わっているんだ」

「?」

「なんというか……、その、第一騎士団の面々では対処出来ない事案が出来てしまってね」

そう言うと、レオンハルトは遠い目をする。
一方のマリアベルは全く話が見えず、ただただ困惑するばかりだ。


第一騎士団の方々が対処できないのであれば、自分は殊更何もできないではないか。
それなのに、なぜ自分にそのような重責を命じるのか。

マリアベルは丁重に断ろうと口を開きかけた時、それを遮るようにレオンハルトが口を開く。


「だが!」

遠い目をしていたレオンハルトの瞳がマリアベルを射抜いた。

「だが、お前には……、むしろお前にしか出来ない任務なのだ」

「私にしか?」

「そうだ。その理由は奴に会えば直ぐに分かることではあるが、すまないマリアベル。どうかこの任務を引き受けてはくれまいか?」



両手を合わせマリアベルに懇願するレオンハルトを前に、マリアベルは断りの言葉を紡ぐことが出来なくなってしまい、代わりにひとつため息を零した。

「これは、団の命令でもあるのですよね?」

「ああ。そして私個人からの命でもある」

……憂鬱だ、非常に。

突然の大きな任務を、自分がこなせるのだろうか。
だが、目の前の兄でもある自分の上司にこうも言われてしまったら、騎士たるもの逃げるなど一刀両断。

「……わかりました。第二騎士団マリアベル、その任務快くお引き受け致しましょう」

胸に手をあて、啓礼する。
マリアベルの言葉に、レオンハルトは明らかにほっとしたような表情を浮かべた。

「ありがとうマリアベル、非常に助かるよ。早速なんだが、任務は明日からとなる。明日朝一番、西塔の団長室に行ってほしい。詳しい話は主からするだろう」

「かしこまりました」

「話は以上だ。では任務に戻るように」

「はっ」