「相変わらず、可愛げのない女……か」

マリアベルはそう口にして、自嘲的な笑いを零す。

そんなこと他人に言われなくても嫌というほど自覚している。
普通の令嬢のようにはなれないのだ。騎士として生きると決めた時点でその生き方は捨てたのだから。

分かっている。理解しているはずなのに。

「……はは、私もまだまだ未熟だな」

未だにその言葉でショックを受けるとは思ってもみなかった。
マリアベルの中にはまだどこかしら吹っ切れていない部分があるのだろう。

目頭が熱くなる。
だがここで泣いてはいけない。泣いてしまったらそれこそあの男に屈したような気がして、マリアベルは必死に堪えた。

頬を数回叩き深呼吸も繰り返して、ようやく少しずつ気持ちが落ち着いていく。
だがこのままゆっくりとここにいるわけにはいかなった。

(……いい加減戻らないと)

思ったよりも長く食堂に長居をしてしまった。長くかかるとジークウェルトは言っていたが、さすがにそろそろ終わるころだろう。
心が晴れたわけではないが、先ほどよりは全然ましだった。マリアベルは急いで控室へと向かった。

ノックをし部屋へ入ると、そこには2名の専属騎士が静かに椅子に座って待機している。
彼らは第一騎士団の選ばれしエリートたちだ。マリアベルが一礼をすれば、同じように一礼を返してくれる。そして目を閉じ主が終わるのを待っているのだ。

その間、決して無駄話などしない。常に騎士の礼儀を守り静かに待機している。
マリアベルは助かったとホッとした。
なにせ所属団が違う、しかも女性としては初の専属騎士。騎士だけになれば少なからず色々聞かれるだろうと思っていたからである。
まして先ほどの件でもう少し落ち着く時間が欲しかった。ゆえに、この状況はマリアベルにとって願ってもみないものであった。

マリアベルも他の騎士たち習って、椅子に腰かけると目を閉じ、静かにジークウェルトが来るのを待った。