「失礼いたします、第二騎士団所属マリアベル・アステリア、団長の命により参上致しました」

漆黒の扉を2回ノックし、扉の向こうの人物に向けて声を上げたのは、紛れもなくかの令嬢マリアベルである。

あの婚約のいざこざから6年。

無事学園も3年前に卒業し、マリアベルは希望通り王国直属の騎士団への入団を果たしていた。

年はとうに22歳となり、貴族令嬢としては既に行き遅れの年齢ではあるが、無論マリアベルは結婚どころか婚約相手もいない。

あれからというもの、より剣術に励むようになったマリアベルはメキメキと頭角を現し、城内警備を主に担当する第二騎士団の配属となった。

ウエーブがかった赤毛の髪を後ろひとつに纏め、動きやすい服の上に重厚な胸当てを身体に身に着け、背中には第二騎士団の紋章が銀糸で刻まれた藍色のマント。
腰には毎日手入れを怠ることのない鋭い刃を持つ長剣が、白き鞘に納められぶら下がっている。

学園に通っていた頃はたまにしていた化粧も、騎士団に所属されてからする暇もなくほぼすっぴんであったが、それでもそれなりに美しく、かつ女性にしては凛々しい顔立ちをしていた。背もぐんと伸び、同じ年頃の令嬢と並んでも頭一つ以上は飛び出ているほどだ。

「よし、入れ」

許可の言葉が下り、マリアベルは扉を開けるとその場で一礼してから中へと入る。

部屋には、マリアベルの直属の上司でもあり、そして兄でもあるレオンハルト第二騎士団長が机を間にして立っていた。