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「じゃあ、紘ちゃんまたね!」
夕暮れ時、オレンジ色の空の下。
いつも通り彼女の家の前で立ち止まり、手を振る仁菜子とわかれる……一歩手前。
「あー……仁菜子、」
「うん?」
「や、その……なんだ、えーっと」
「紘ちゃん?どうしたの?」
木暮の言葉がよぎる。
うっせぇばあか。そう思いながらも、おれは何故か今 仁菜子を呼び止めている。なにしてんだおれは。
キョトンとした表情で仁菜子がおれの顔を覗き込んでくる。黒い瞳の中はいつも光が差していて、目を合わせると そのつぶらな瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
……いや、つうかそれよりも。
「……なあ、近い」
「あっ!え!ごっ、ごめんね!ごめんなさいっ」
慌てておれから離れた仁菜子が耳まで真っ赤にして泣きそうになっている。
昔から仁菜子はよく泣くのだ。悲しくても泣くし、嬉しくても泣くし、悔しくても泣く。
多分今は「恥ずかしくて」泣きそうになっている。



