悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

パーティー嫌いで有名な冷徹皇帝が姿を現しただけでなく、曰く付きの王女に優しく微笑みかけ、傍から離さないのだ。

一体何が起こっているのだと、皆がこの状況を理解しかねている。

一方のリシュタルトは、ひじ掛けに肘をつき、長い脚を組みながら、つまらなさそうに踊っている人々を眺めていた。

「お前はダンスは得意なのか?」

リシュタルトが、ふとナタリアに聞いた。

「あまり得意ではありません。でも、いずれは社交界デビューしないといけませんから、練習はしてます」

今のところ十三歳になったら城を出るつもりなので、正直ダンスのレッスンは適当にこなしている。

ナタリアにとっては、金にならないダンスの練習などより、獣操師になる勉強の方がずっと大事なのだ。

だがそんなことを正直に口にするわけにはいかず、嘘のない程度に返事をとどめる。

リシュタルトがフッと笑った。

「お前は王女なのだから、得意ではないのなら、無理に踊らなくていいんだぞ」

「ですが、デビューの際はお兄様がお相手をしてくださるようなので、どうにかごまかせるとは思います。お兄様はダンスがお上手ですから」

「……もうレオンと踊る約束をしたのか?」

リシュタルトの声があからさまに低くなった。

「? あ、はい……」

リシュタルトの突然の雰囲気の変わりように、ナタリアは動揺する。

銀色の耳をイラついたようにピクピクさせながら、リシュタルトが続けた。

「そういえばお前が初めて喋った言葉は、『お兄様』だったらしいな」

「へ? そうでしたっけ」

「レオンが自慢げに言っていた」

「言われてみると、そんな気もします……」