悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

真夜中。

微かな物音がして、ナタリアは目を覚ました。

暗闇の中、開け放った窓の前にリシュタルトが立っている。

(こんな時間にどうしたのかしら?)

横になったままぼんやりとリシュタルトを見ていると、彼の銀色の髪がふわりと逆立った。

あっと思った時にはもう、リシュタルトは銀色の狼に変化していた。

月光に照らされたその姿は、息を吞むほどに美しい。

父はひらりと優雅に窓枠を超え、外へと飛び出して行った。

(どこに行ったのかしら?)

飛び起きて窓から外を見るが、リシュタルトの姿はもうどこにもない。

昼間の彼との会話が、ナタリアの脳裏をよぎる。

あの山でラーの花の香りがしたことに、リシュタルトは引っかかっていた。

きっと、誰もいないうちに真相をたしかめるため、山に向かったのだろう。

「どうしよう、私も行きたい……」

何かに怯えている母ドラドを思い出し、ナタリアも居てもたってもいられなくなる。

前世の大人の知識があるし、獣操師の勉強だってしているのだ。

ナタリアにだって、少しは何かできるかもしれない。

リシュタルトと鉢合わせてしまったら、勝手な行動をしたと、嫌われてしまうかもしれないけど……。

(バレなきゃいいのよね)

我慢できなくなったナタリアは、手近にあったハンカチを頭巾にして軽く変装し、ネグリジェのままこっそり部屋を抜け出すことにした。