悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

「ぼんやりとしているな。眠いのか?」

間近に迫る、美しい父の顔。

「いいえ。先ほど見た、ドラドのことを考えていました」

「そうか。獰猛化した獣を見るのは初めてだっただろう。怖かったか?」

「いいえ」

ナタリアはかぶりを振る。

「怖くはありません。ただ、ドラドの方が、何かを怖がっているように見えました。だから何を怖がっていたんだろうって、ずっと気になっていたのです」

リシュタルトの金色の瞳が、驚いたような色を浮かべる。

それから彼はフッと口元に笑みを乗せると、ナタリアの頭にポンと掌を乗せた。

「俺の目にも、あのドラドは何かにひどく怯えているように見えた。それに――」

リシュタルトが顎先に手を当て、遠くを見つめた。

「あの山からは、かすかにラーの花の香りがした。だが、ラーの花はあたたかい地域に咲く花だ、この地域には自生していていない。もっとも、従者たちはそのことに気づいていないようだった。獣人は人より鼻が効くからな」