(赤ちゃんよりはましだけど、その年齢でもまだきついわよね)

十五にも満たない少女が、たったひとりで生きれるだろうか?

前世で、ナタリアは親にろくな思い出がない。

ろくでもなかった父親は幼いころに蒸発し、母親もナタリアがぎりぎり自立できる年齢になるといなくなってしまった。

そのため、生活するのにかなり苦労した。

親の援助で何不自由なく暮らしている同級生を見るたびに、うらやましいと思ったものである。

また同じ苦労を背負わないといけないのだろうか?

(ん? 親の援助?)

「あば~っ!(そうだ!)」

孤独だった前世とは違って、今のナタリアは王女なのだ。

獣人皇帝リシュタルトというこれ以上ないほどの権力と財力を備えた父親がいる。

彼の援助が得られれば、一生楽して暮らせる。

(リシュタルトに気に入られて、援助を受けながら正々堂々と外国で暮らせばいいのよ!)

ある程度の年齢になったら、留学したいと頼んでみよう。

そのためにはあの冷血漢と名高い皇帝リシュタルトに気に入られないといけないという関門があるけど……。

(できるかしら? そういえば……)

モフ番の中で、アリスは見事に鉄壁の彼の心を動かした。

どんなに冷たくされようと、明るさを忘れず、リシュタルトに凛と立ち向かったからだ。

彼は明るくて強い心を持った者を好むのだ。

モフ番の中のナタリアはネチネチとした性格だったから、リシュタルトに愛されることなくあんな結果を招いたに違いない。

明るくて強い子になって、少しずつ愛されよう。

「あば、ぶっ!(よしっ、やるかっ!)」

ナタリアはガシッと拳を握りしめた。