悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

「一月前、あの山に野生のドラドが現れてすぐ、法令通りに私たちは獣保護施設に連絡しました。施設に保護されるその日まで、あたたかく見守るつもりだったのです。ですが突然獰猛化して村を襲い、獣操師が来ても、ドラドたちは言うことを聞きませんでした」

(獣が理由もなく獰猛化することなんてあるのかしら?)

ひっそりと獣操師の勉強を続けているナタリアは、ダスティンの言葉に違和感を覚える。

獣も獣人も、獰猛化するのにはちゃんと理由があるはずなのに。

「ドラドはあの山にいるのか?」

「そうです。ご案内しましょう」

「――待て」

リシュタルトが、ナタリアに視線を向けた。

「お前は危険だから、宿に戻ってろ。誰かに送らせる」

(そんな、せっかく野生のドラドを見れるチャンスなのに……!)

ナタリアは、慌ててリシュタルトの足にしがみつく。

「お父様。わたしはお父様と離れたくありません。そばを離れるなとおっしゃったではないですか」

「これから行く場所は間違いなく危険だ。お前を連れて行けるわけがないだろう?」

「いやです! お父様と一緒がいい!」

ナタリアのいつにないわがままに、リシュタルトが表情を険しくする。

(やばい。神経を逆なでしちゃったかも)

たまにはごねてみるのもいいかもしれない、と勝負に出たけれど、リシュタルトの顔を見てナタリアは怖気づく。

すると、村人たちがヒソヒソと耳打ちを始めた。

「しがみついて離さないなんて、なんて愛らしいのかしら」 

「王女様は、よほど皇帝陛下のことがお好きなのね。普段からきっと、優しいパパなんだわ」

ささやかれる声に、悪い気はしなかったのだろう。

リシュタルトはほんのり顔を赤らめると、観念したように溜息を吐いた。そしてナタリアをひょいと抱き上げる。

「仕方がない、一緒に行こう。だが絶対に俺から離れるなよ」

(よかった。折れてくれた……!)

ナタリアはリシュタルトの胸に頬を寄せると「はい!」と無邪気に返事をした。