抵抗むなしく、ナタリアはあっさりと離宮に連れ戻され、ベビーベッドの中に放り込まれてしまったのである。

死にたくない。どうにかして生き延びたい。

ベビー布団でふて寝をしながら、ナタリアは悶々と考えた。

ナタリアはアリスをいじめたから、彼女のチート力にほだされた皇帝リシュタルトの命令で投獄された。

そしてナタリアは死んでしまう。それなら――

(そうよ。アリスが現れても絶対にいじめず、仲良くすればいいのよ!)

何も知らないナタリアなら、この先超絶美形の義兄に恋をし、嫉妬からアリスをいじめていただろう。

だが今のナタリアは違う。

いじめた代償に自分の死が待ち受けていると分かっているのだから、絶対にいじめたりはしない。仲良くなってみせる。

考えてみれば、解決方法はいたってシンプルだった。

一件落着とばかりにナタリアはホッと胸を撫で下ろす。

だが次第に、今度はえもいわれぬ不安感がどっと押し寄せた。

(そんなにうまくいくかしら?)

なにせアリスはこの世界の主人公、この世界はいわば彼女のために存在する。

そしてナタリアは、彼女の魅力を引き立てるために登場する悪役令嬢。

いじめるつもりはなくても、結果いじめたことになってしまうのではないだろうか?

(無実の罪で断罪されることになったらどうしよう)

未来の哀れな自分の姿を想像し、ナタリアはぞっとする。

やはり、アリスに出会う前に逃げ出した方がいい。その方が確実に人生安泰だ。

(でも、逃げ出せたとしても、こんな赤ん坊がどうやって暮らしていくの?)

今になって気づいたが、赤ちゃんの状態で逃げ出したところで、生活力はおろか、言葉もろくに話せないナタリアがひとりで生きていけるわけがない。

悪い大人に捕まって売り飛ばされて、投獄されるよりも最悪な人生が待ち受けている可能性だってある。

逃亡するのは、ある程度の年になってからのほうがいいだろう。

モフ番の中でナタリアとアリスが出会うのはたしか十六歳頃だったから、遅くとも十五歳までには出ていきたいところだ。

できればもっと早く、十四歳とか十三歳が理想ではある。

でも――。