悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

笑顔で叱るギルが怖い。

だが彼は本当に知己に長けていて、これ以上の家庭教師はいないのではないかと思うほど優秀だ。

それに、他の家庭教師であればまだ小さいから早いと言われそうな分野でも、望めばどんどん教えてくれる。

早く知識を蓄えてひとり立ちしたいナタリアとしては、貴重な存在だった。

ちなみにラエゾン語というのは、大陸の端にあるピット国の常用語だ。

アリスに出会う危険をとことん避けるために、最終的にナタリアはピット国まで逃亡するつもりだった。

ギルが、バイオレットの瞳を細める。

「何かお悩みのようですね。私でよかったら、話を聞きましょう」

ギルは聡明なだけでなく、勘まで鋭い。

今までだって思っていることを何度も言い当てられた。

中には『ナタリア様は、ときどき大人びた表情をされますね。まるで体の中に大人の心が宿っているようだ』という鋭い指摘もあってドキリとした。

ナタリアは師である彼に、意見を仰ぐことにした。

「その、将来が不安なの。私は王女でなければ、なんの取り柄もないわ。もしものことなんだけど――たとえ王女でなくなっても、自分の力で生きていくにはどうしたらいい?」

「なるほど、あなたは一生権力に甘んじるおつもりはないのですね。賢い王女です」

ギルが感心したように頷いた。

「簡単なことですよ、ナタリア様。手に職をつければよいのです」

「手に職って、例えばどんなこと?」

「パン焼きや刺繡など、なんでも結構です。才覚のある職を選ばれるのが最善ですけどね」

「パン焼きに刺繍……どちらも微妙だわ」

苦い顔をしていると、ギルがテーブルに頬杖をつき、身を乗り出してくる。

「獣操師はどうです?」

「獣操師?」