『超絶美形なモフモフ王子の番になりました』――たしか、そんなタイトルだったと思う。
前世で読んだ、獣人と人間の共存する異世界を舞台としたライトノベルである。
獣人皇帝の城で働くことになった洗濯係の少女が、超絶イケメンの獣人王子に番認定されて溺愛され、チート能力を発揮し、国のピンチを救ってめでたしめでたしという話だった。
仕事ばかりの日々の合間に癒しを求め、なんとなく読んだだけのものなので、細部までしっかり覚えているわけではない。
だけど基本設定である世界観や、登場人物の名前、挿絵にあったオルバンス帝国の王城の様相は何となく覚えていた。そして似ている、似すぎている。
ヒロインの名前はアリス。小説の中では十七歳くらいだった。
ヒーローは、ナタリアの兄レオンである。
そしてあろうことか、ナタリアはレオンの妹にして、ラストで無残な死を遂げる悪役令嬢だった。
(兄のレオンに恋して、番認定されたアリスをいじめて、パパである皇帝リシュタルトの怒りを買って投獄されるのよね……)
そのうえ記憶が確かなら、牢屋の床で滑って転んで死んでしまったみたいなことがサラリと書かれていたような。なんて雑な展開、と興ざめしたのを覚えている。
だが今は、全然笑えない。
つまりせっかく王女に生まれ変わったというのに、悪役令嬢として忌み嫌われた挙句、また若くして死んでしまう運命が待ち受けているのだ。
「あああああ……!」
「ドロテ、ナタリア様が赤ちゃんとは思えないダミ声で唸ってるわ! 大丈夫かしら?」
「まあ、何か変なものでも食べたのかしら?」
ドロテの胸元でナタリアが絶望の声を上げると、アビーとドロテに口々に心配された。
(とにかくすぐにでもこの城から出て、主人公アリスに会わないようにしないと……!)
アリスが現れたら、ナタリアの運命はバッドエンドに向けて急降下の一途をたどるのだから。
生まれて間もなくから外の世界に憧れたのは、無意識のうちにこれから訪れる悲運を予感していたからなのかもしれない。
「あいっ! あいあいっ!(降ろして! 降りたいんです!)」
必死にドロテの胸元をドンドンとたたくが、赤ん坊の小さな身体で暴れたところで、どっしり体系の彼女はびくともしなかった。
「これだけ元気なんだから大丈夫よ、アビー」
「それもそうね。もう二度と脱走しないように今後は今まで以上にしっかり見守りましょ!」
「あい~っ、あいあい!(そんな~っ! 死にたくない~!)」
前世で読んだ、獣人と人間の共存する異世界を舞台としたライトノベルである。
獣人皇帝の城で働くことになった洗濯係の少女が、超絶イケメンの獣人王子に番認定されて溺愛され、チート能力を発揮し、国のピンチを救ってめでたしめでたしという話だった。
仕事ばかりの日々の合間に癒しを求め、なんとなく読んだだけのものなので、細部までしっかり覚えているわけではない。
だけど基本設定である世界観や、登場人物の名前、挿絵にあったオルバンス帝国の王城の様相は何となく覚えていた。そして似ている、似すぎている。
ヒロインの名前はアリス。小説の中では十七歳くらいだった。
ヒーローは、ナタリアの兄レオンである。
そしてあろうことか、ナタリアはレオンの妹にして、ラストで無残な死を遂げる悪役令嬢だった。
(兄のレオンに恋して、番認定されたアリスをいじめて、パパである皇帝リシュタルトの怒りを買って投獄されるのよね……)
そのうえ記憶が確かなら、牢屋の床で滑って転んで死んでしまったみたいなことがサラリと書かれていたような。なんて雑な展開、と興ざめしたのを覚えている。
だが今は、全然笑えない。
つまりせっかく王女に生まれ変わったというのに、悪役令嬢として忌み嫌われた挙句、また若くして死んでしまう運命が待ち受けているのだ。
「あああああ……!」
「ドロテ、ナタリア様が赤ちゃんとは思えないダミ声で唸ってるわ! 大丈夫かしら?」
「まあ、何か変なものでも食べたのかしら?」
ドロテの胸元でナタリアが絶望の声を上げると、アビーとドロテに口々に心配された。
(とにかくすぐにでもこの城から出て、主人公アリスに会わないようにしないと……!)
アリスが現れたら、ナタリアの運命はバッドエンドに向けて急降下の一途をたどるのだから。
生まれて間もなくから外の世界に憧れたのは、無意識のうちにこれから訪れる悲運を予感していたからなのかもしれない。
「あいっ! あいあいっ!(降ろして! 降りたいんです!)」
必死にドロテの胸元をドンドンとたたくが、赤ん坊の小さな身体で暴れたところで、どっしり体系の彼女はびくともしなかった。
「これだけ元気なんだから大丈夫よ、アビー」
「それもそうね。もう二度と脱走しないように今後は今まで以上にしっかり見守りましょ!」
「あい~っ、あいあい!(そんな~っ! 死にたくない~!)」



