ナタリアの部屋を離宮から本宮に移すよう通達があったのは、数日後のことだった。
 

リシュタルトは広大な宮殿の三階部分を、すべて自分の居住空間としていた。

気難しい彼は、自分のテリトリーに、犬のロイと、ごく一部の侍従以外入ることを許さなかった。

跡取りのレオンですら、別階である。

ところがあれほど嫌っていたナタリアのために三階の部屋を準備したというのだから、あの冷血漢にいったい何があったのかと、大変な騒ぎだった。

ナタリアの身の回りの世話をするために、ドロテとアビーも三階への出入りを許されるようになる。

憧れの本宮勤めに、ドロテとアビーはすっかり上機嫌だ。

「リシュタルト様も、ナタリア様の愛らしさの前ではただのパパになってしまうのですね!」

「私たちがお育てしたんですもの、当然ですわ!」

鼻高々に言いながら、ふたりはてきぱきとナタリアの新しい部屋に荷物を片付けていく。

ナタリアのために用意された部屋は、寝室と勉強部屋の二部屋だった。