思わぬ状況に気持ちが昂る。

人生やり直したいと、前世で何度思ったことだろう。それが現実に叶うなんて。

舞い上がっていると、横の茂みが突然ガサッと揺れた。

驚いて肩を揺らしたが、それきり何も起こる気配がない。狸かウサギでもいたのだろう。

「いたわ、あそこよ!」

背後から侍女の声が聞こえ、ナタリアはがっかりする。

もう見つかってしまったようだ。

楽しい散歩はおしまいだが、自分が転生者だということに気づいたのは大収穫である。

狼は、ナタリアが目を離した隙にいなくなっていた。

「んもうっ、ナタリア様、探したんですよ! ああ、こんなに泥だらけになって!」

茶色の犬耳を持つ侍女のドロテが、突っ伏していたナタリアを抱き起こす。

(ナタリア? そっか、今の私そんな名前だった。ていうかここどこ? 外国かしら)

生まれ変わりを自覚した今、今度こそ人生を失敗しないためにも、まずは自分の置かれている状況を冷静に判断しないといけない。

「リシュタルト様に見つかったらどうするんですか!? 絶対に俺の目に入らないように世話をしろと念を押されているのですから!」

もうひとりの侍女のアビーが、おびえた声を出しながら、ナタリアのロンパースについた土を払う。

(リシュタルト? きっと、今の私の父親ね)

そういえば、その名前を今まで何度も彼女たちの口から耳にした。

侍女を抱えるほどだから、かなりの富豪なのだろう。

富豪の娘ということは、将来を約束されたも同然である。

なんてラッキーなのだろう。

前世のふがいないナタリアを哀れんで、今度こそ神様が幸運を与えてくれたに違いない。

「さあ。戻りますよ、ナタリア様」

むふふと微笑んでいると、ひょいとドロテに抱き上げられた。

ドロテの頭上にある茶色い三角耳が、よりはっきりと目に映る。

(そういえば、ドロテって獣人? アビーは人間だけど……。なんかこういう特殊な世界観、どこかで見た気がする)

なぜか、心がモヤッとした。

目線の高くなったナタリアの目に、今度は黄金の尖塔をいただく優美な王宮がドドンと映り込む。

その瞬間、ナタリアはサーッと顔を青くした。

(待って待って! これってまさか、モフ(つが)の世界なんじゃないの!?)