悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

「厩舎がすぐそこなんですよ。あとで馬を見に行きますか?」

ナタリアを肩から降ろしながら、ギルが言った。

「うん、行きたい!」

「分かりました。ですが、先におやつを食べてしまいましょうね」

元気に答えるナタリアに、にっこりと笑みを向けるギル。

敷布を広げ、おやつタイムが始まった。

「ギルは食べにゃいの? おいひいよ」

「私は甘いものが苦手ですので」

マカロンやカップケーキを味わうナタリアを、ギルは終始優しい笑顔で見守っていた。

「甘いものが苦手なんて、ギルって大人」

「大人っていうか、老けてるんだよ」

こんなときも、レオンはギルへの対抗意識を忘れない。

(ラストの泣けるシーン、何だったっけ……。なんかすごく、そのシーンが重要な鍵を握ってる気がするのよね)

その後はレオンとかくれんぼをしたが、ナタリアの頭の中はそのことでいっぱいだった。

思い出したくてむずむずするが、モフ番が手元にない今はどうしようもない。

(ああ~、もっとちゃんと読んどけばよかった!)

どうして読み返さなかったのと前世の自分を責めているうちに、景色が変わっていることに気づく。

今はナタリアが探す番で、レオンが隠れる番だった。

レオンを探している間に、ギルの待機している場所から離れ、変なところに来てしまったらしい。

(あれ? 芝生広場はどっちだったっけ?)

馬の嘶きがより鮮明に聞こえるので、厩舎に近づいたのだろう。

歩き続けるうちに急こう配の坂が現れる。坂の上には厩舎らしき木造りの長屋が見えていた。

本当に厩舎の近くまで来てしまったようだ。

引き返さないと、と回れ右をしたときのことだった。

「ワンッ!」

坂の上から、黒い影が勢いよくナタリアめがけて走ってきた。ロイだ。

「ワンッ! ワン、ワンッ!」

ギルはナタリアを見つけたらいつもそうするように、尻尾をパタパタと激しく振りながら飛び掛かってくる。

そして勢いで地面に倒れたナタリアの顔をペロペロと舐め始めた。

「ふふっ、ロイ、くすぐったいよ……!」

ギルの背中越しに、坂の上、厩舎の手前からこちらを見下ろしている背の高い影が見えた。

風にそよぐ銀の髪、遠くにいてもひしひしと伝わる威圧感。

リシュタルトだ。

(本当に、改めて見てもきれいな人)