悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

ナタリアが三歳半を迎えた頃。

その日は朝から天気がよく、昼過ぎにおやつを持って出かけることになった。

くるみのクッキーに、甘いクリームを乗せたカップケーキ、カリカリのマカロン、それからたっぷりのラズベリージュースにレモネード。

アビーとドロテが腕をふるって作ってくれたそれらを、バスケットに詰め込む。

バスケットはギルに持ってもらい、レオンとふたり、手を繋いで離宮の裏にある森を目指した。

「ナタリア、危ないからお兄様の手を離してはいけないよ」

「はい、お兄様」

ナタリアは今日、薄黄色のワンピースドレスに、髪は黄色い大き目のリボンでツインテールに結んでいた。

「そのリボン、似合ってるよ」

「お兄様、ありがとうございます。私もとても気に入っているのです」

このリボンは、ナタリアの三歳の誕生日にレオンが贈ってくれたものだ。

まるで蝶のように華やかで愛らしい妹の姿に、レオンはかなりご満悦のようだ。

金色のふさふさの尻尾を、終始上機嫌に揺らしている。

三人は、敷地の端にある新緑の中をぐんぐん突き進んだ。

背の高いクスノキが連なる森は、王城の一角とは思えないほど立派である。

「おや、ナタリア。あの木の上にキツツキの巣があるよ。親鳥が小鳥に餌をあげてる、かわいいね」

レオンが言った。

「お兄様、どこ?」

「見えないかい? 抱っこしてあげよう」

レオンがナタリアを抱えるが、見える範囲にキツツキなどいない。

「見えないです……」

「ずっと上の方だよ。よーく見てごらん」

「うーん……」

ナタリアよりは背が高いとはいえ、レオンもまだ十歳。そんなに高くはナタリアを持ち上げられない。

「私にお任せください」

すると、ギルがレオンの腕の中からひょいとナタリアをさらった。

そして、軽々とナタリアを肩車する。

「どうですか、見えますか?」

スラリと背の高いギルは、百八十センチは超えている。

ナタリアの視線はレオンに抱っこされていた時よりも圧倒的に高くなり、今度は大木の上方にある巣穴がしっかり見えた。

レオンの言っていたように、頭だけ赤い鳥が、せっせと巣穴にくちばしを出し入れしている。

巣穴からは、キツツキの雛が、ピーピーとかわいらしく鳴きながら顔を覗かせていた。

「見えたわ! かわいい!」

ナタリアが声を上げると、レオンがつまらなさそうに唇をへの字に曲げた。

妹が大好きなレオンは、ギルがナタリアを喜ばせるたびに相変わらず不服そうな顔を見せる。

だがギルの肩の上から見る世界は全く違って、テンションの上がったナタリアは兄に構っている余裕はなかった。

手を伸ばせば青空が届きそうで、まるで空を飛んでいるようだ。