悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

ほんの少し安心したせいか、ナタリアはようやくのことで、思い描いていたリシュタルト攻略方法を思い出す。

とにかく、臆病なところを見せてはならない。

ナタリアは気を取り直すと、ちょこんと立ち上がり、行儀よく礼をする。

「おとうさま、はじめまして。ナタリア・ベル・ブラッグウッドともうします」

礼をする角度から間合いまで、完璧にこなせた。

舌足らずなのが惜しいが、まだ発達が未熟なので仕方がない。

リシュタルトの獣耳が、かすかにピクリと動いた。

レオンが警戒するようにロイを見ながら、ナタリアのもとに駆け寄ってくる。

「――ナタリア、大丈夫?」

「はい、だいじょうぶです」

「ロイに嚙みつかれなかったかい?」

「ペロペロされただけです」

「そうか、それは運がよかったね。ロイは父上以外には懐かない凶暴な犬なんだ。僕なんて何度もお尻を……いや、この話はよそう。とにかくナタリアの顔に傷がついてなくてよかった」

ホッとした顔を見せたあとで、レオンがリシュタルトに避難の目を向ける。

「父上、どうしてロイにナタリアを襲わせたりしたのです? ナタリアを好ましく思っていないからといって、あんまりではないですか」

襲われたのではない。ロイが勝手に飛び掛かってきて舐め回してきたのだ。

ナタリアは兄の誤解を解こうとしたが、それよりも早くリシュタルトが声を出した。

「そんなところにいる方が悪い」

面倒そうに言い放ったリシュタルトは、レオンに反論するつもりはないらしい。

それから彼は、最後に無感情な瞳でナタリアを一瞥して、ロイとともにその場から足早に立ち去った。