悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

リシュタルトの醸し出す圧倒的な威圧感を前に、ナタリアは足がすくんで動けなくなった。

彼に会ったらどういう手順で攻略するか、綿密に頭の中で計画を練っていたのに、あっという間にすべてが弾け飛んでしまう。

何よりも、ナタリアをまっすぐ射貫く瞳の冷たさに、背筋がぞっと震えた。

この先彼に忌み嫌われ、投獄される運命が待っていることを、否が応にも思い出す。

怯えてひと言も発せずにいるナタリア。

リシュタルトの形のよい片眉が怪訝そうに上がる。

「お前は――」

鼓膜に低く響く、うっとりするような声だった。

にもかかわらず、底知れない冷たさを孕んでいて、ナタリアは怖気づく。

「あ、あの、その……」

たどたどしく話そうとすると、リシュタルトが不快そうに眉根を寄せた。

(どうしよう。怖くて泣きそう……)

泣いたところでどうにもならないことは分かっているのに。

前世の自分の警戒心と、幼女のナタリアの怯えが重なって、目元がうるうるしてくる。

「――ワンッ!」

そのとき、どこからともなく現れたドーベルマンのような犬が、勢いよくナタリアに飛びかかる。

「……きゃっ!」

瞬間、ナタリアは押し倒され、激しく尻尾を振る犬に激しく顔中を舐められた。

「ワンッ! ワン、ワンッ!」

なぜか興奮している犬は、ナタリアから離れる気配がない。何がどうなっているのかさっぱり分からないまま、ナタリアは犬にされるがままになっていた。

リシュタルトは立ったまま、そんなナタリアをじっと見つめている。