――ナタリアの悲惨な運命は、一歳になったばかりのあの瞬間、すでに変わろうとしていたらしい。

「お嫌ですか? あなたと私とでは、少し年が離れている」

ナタリアの涙の理由を勘違いしたのか、ギルが悲しげに言う。

実際はそうかもしれないが、獣人であるギルの見た目は二十歳過ぎといったところ。

ナタリアは、彼の見た目に抵抗はない。

するとギルは、ナタリアの唇を愛しげに指先で撫でながら、柔らかく微笑んだ。

「――お嫌でもいいのですよ。そのときははっきりおっしゃってください。私はすぐにでも、陰からあなたを見守るだけの男になりますから。あなたは私の番であると同時に、私の運命を変えてくれた尊い存在です。この世の何よりも大事にしたい」

「……嫌なんかじゃないわ」

ナタリアは、静かにかぶりを振った。

そして涙で濡れた目で微笑みながら、まっすぐにギルを見る。

「大人になるまで、本当に待っていてくれる?」

するとギルは目を見開いたあと、みるみる顔を真っ赤にした。

「……当たり前じゃないですか」

いつも冷静沈着な彼がこれほど照れている顔を見るのは初めてのことで、ナタリアは思わずまじまじと観察してしまう。

「ギル、ものすごく顔が真っ赤よ」

「あなたのせいだ……」

赤らんだ顔を見られるのが恥ずかしいのか、ギルは手で顔を覆いながら唸るように言った。

そのとき。

「何をしている? 近づき過ぎだ」

背後から伸ばされた腕に、ナタリアは突如ぐいっと身体を引き寄せられる。