悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

その日のうちにレオンはリシュタルトに掛け合ってくれたが、ナタリアが離宮から本宮に移る許可は下りなかった。

リシュタルトは、それほどまで娘のことを嫌っているのだ。

だが、収穫はあった。

本宮に移ることはかなわなくとも、ナタリアが敷地内を出歩く許可が下りたのである。

「父上はナタリアのこととなると、厳しい顔をするんだ。ナタリアは知らなくていいことだけど、過去にいろいろあったらしくてね」

レオンがナタリアを自分の膝の上に乗せ、くるくるした茶色い髪を撫でながら語りだす。

彼は年端もいかないというのに、自分の父親の身に起きた複雑ないろいろを分かっているらしい。

「でも大丈夫だよ、ナタリア。いつだって、僕が君を守ってあげるからね」

レオンがアイスブルーの瞳を細めて言った。

ナタリアは、話の流れをなんとなく理解する。

リシュタルトはレオンの母と結婚しているときに、番であるナタリアの母に出会った。

番の本能そのままに、リシュタルトはレオンの母と離縁し、ナタリアの母を新たな王妃として迎えた。

前世の感覚ではありえないことだが、獣人のいるこの世界では、番と出会ってしまったなら離縁されても仕方がないという考えがまかり通っている。

レオンの母は離縁に承諾したものの、心の内では深い傷を負い、床に伏してそのまま他界した。

モフ番のとあるくだりに、リシュタルトがそのことを気に病んでいる様子が書かれていた。

母を失わせてしまった罪悪感から、冷血漢と名高い彼も、レオンのことだけは気にかけていた。

だからレオンがアリスを番認定したとき、自分と同じ悲劇に見舞われないかと心配して、ふたりの結婚に猛反対するのだ。

アリスは見事リシュタルトに気に入られることで試練を乗り越え、ふたりはラストめでたくゴールインする。

つまり、リシュタルトは他ならぬレオンが頼み込んだから譲歩したのだ。

「おにいたま、わたし、おそとに出てみたい」

感謝の気持ちを込め、キラキラとした瞳でレオンを見つめる。

「よし、じゃあ散歩に行こうか」

ナタリアを抱き上げるレオン。

「お待ちください、私もお供します。ナタリア様は外に出ることに慣れておられないから、何かあっては困ります」

ギルが、すかさずふたりのあとに続く。

ナタリアの家庭教師であるギルは、言葉だけでなく、数の数え方や色や物の名前なども教えてくれた。

そのためナタリアは知力が格段に伸びて、お喋りも日増しに上達している。

独り立ちするための知識を一日でも早く身につけたいナタリアとしては、ありがたいことである。