悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

飛ばし読みをしてしまった記憶すらあるから致命的だ。

(ああ、モフ番が手元に欲しい……)

ナタリアとして生まれてから、何度この嘆きを繰り返しただろう。

だがそのとき、屋外からガタンという物音がした。

一斉に外へと視線を向ける一同。

「何の音かしら? ダスティン?」

「野うさぎでも通りかかったんじゃねえか?」

「クウン、クウン」

「私が見てきましょう」

ギルが立ち上がり、蝶番の音が響かないように注意しながら屋外に出て行く。

宿屋の玄関ホールには、ナタリアとイサク、それからユキが残された。

ギルはなかなか帰ってくる気配がなく、ナタリアは不安に襲われる。

「何かあったのかしら?」

ギルは頭脳明晰だが、武芸に秀でているわけではない。というより、剣を扱っているところを見たことがない。

宵闇から襲われたら、一発でのされてしまう可能性だってある。

「あの優男、弱そうだもんな!」

ナタリアが深刻に悩んでいるというのに、ガハハと無神経な笑い声を響かせるイサク。

ムッとしてイサクを睨むと、ユキもイサクを責めるように体当たりした。

あまりの衝撃に、イサクがずるっと床に倒れ込む。

「おいユキ、何しやがる! 痛いじゃねえか!」