かつて港町の食堂で、ナタリアとギルは異母弟の行方を追っているリシュタルトの侍従を見た。
命からがら逃げだした異母弟の行方を長年追い続けているリシュタルトの執念深さに、あのときはぞっとしたものだ。
だが、ナタリアはゆっくりとかぶりを振った。
「違うわ。お父様は異母弟にとどめを刺すために探していたわけじゃないそうよ」
ナタリアは、数年前イサクに聞いた話を思い出す。
「お父様は、異母弟にずっと謝りたいと思っていたようなの。そして城に迎えるために探していたみたいよ」
リシュタルトと古くからの付き合いのあるイサクは、彼の性格を熟知していた。
一般的には残酷で冷血漢と称されているリシュタルトだが、心の奥深くに慈愛の精神を秘めていることを分かっていたのだ。
ナタリアは、イサクからその話を聞いたとき、すぐには受け入れられなかった。
だがリシュタルトの優しさを誰よりも知って、父親として心から慕っている今は、胸にストンと落ちたように納得している。
ギルが「まさか」と笑った。
「たしかに、リシュタルト様はあなたにはまるで人が変わったようにお優しい。ですが、それはあなたに対してだけです。残酷なことを言うようですが、皇帝陛下のことをいいように捉え過ぎていますよ。彼はあなたの前以外では、残忍で非道な獣人皇帝に変わりありません」
「いいえ、違うわ」
ナタリアはきっぱりと否定した。
「私にはわかるの。お父様は、異母弟のことを特別大事に思ってる。ずっと小さいころ、離宮の裏にある森の奥でじっと立っているお父様を見たことがあるんだけど――あの場所はお父様と異母弟が唯一会ったことのある思い出の場所らしいの」
命からがら逃げだした異母弟の行方を長年追い続けているリシュタルトの執念深さに、あのときはぞっとしたものだ。
だが、ナタリアはゆっくりとかぶりを振った。
「違うわ。お父様は異母弟にとどめを刺すために探していたわけじゃないそうよ」
ナタリアは、数年前イサクに聞いた話を思い出す。
「お父様は、異母弟にずっと謝りたいと思っていたようなの。そして城に迎えるために探していたみたいよ」
リシュタルトと古くからの付き合いのあるイサクは、彼の性格を熟知していた。
一般的には残酷で冷血漢と称されているリシュタルトだが、心の奥深くに慈愛の精神を秘めていることを分かっていたのだ。
ナタリアは、イサクからその話を聞いたとき、すぐには受け入れられなかった。
だがリシュタルトの優しさを誰よりも知って、父親として心から慕っている今は、胸にストンと落ちたように納得している。
ギルが「まさか」と笑った。
「たしかに、リシュタルト様はあなたにはまるで人が変わったようにお優しい。ですが、それはあなたに対してだけです。残酷なことを言うようですが、皇帝陛下のことをいいように捉え過ぎていますよ。彼はあなたの前以外では、残忍で非道な獣人皇帝に変わりありません」
「いいえ、違うわ」
ナタリアはきっぱりと否定した。
「私にはわかるの。お父様は、異母弟のことを特別大事に思ってる。ずっと小さいころ、離宮の裏にある森の奥でじっと立っているお父様を見たことがあるんだけど――あの場所はお父様と異母弟が唯一会ったことのある思い出の場所らしいの」



