悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

レオンは押し黙ったあと、大きくかぶりを振った。

「だめだ。やっぱりやめとこう」

「へ……?」

「ナタリアは僕だけの天使だ。僕以外の人間がナタリアを抱っこするとか頬ずりするとか、考えただけで腹立たしい。ナタリアはこのままずっと離宮にいるべきだよ」

(えええっ……!)

絵に描いたような温厚な王子キャラだったレオンに、なぜかヤンデレ要素が加わっている。

これは、どうしたものか。

「おにいたま……」

「わかった? 僕がこうやって毎日会いに来るから、寂しくないだろ?」

向けられたレオンの笑顔は爽やかだけど、目が笑っていない。

とてもではないが、言い返せる雰囲気ではない。

これは予想外の展開になってしまった。

この分だとこのまま離宮に閉じ込められ、一生を終えてしまいそうだ。 

(ん? でも閉じ込められたら逆にアリスに会わずに住む?)

一瞬そんな考えが頭を過ったが、ナタリアはすぐにいやいやと思い直す。

レオンはこの世界のヒーロー。この先現れる主人公アリスを無条件に愛するために存在している。

アリスが現れたら彼女以外目に入らなくなり、ナタリアのことなどどうでもよくなるのだ。

なにせアリスは、彼の唯一無二の番なのだから。

モフ番の中で、ナタリアがリシュタルトに投獄を言い渡された際、彼はあっさりアリスの肩を持った。

『お前のことはもう妹などとは思わない。僕にはアリスがすべてだ』――そんな無慈悲な言葉とともに。

この先訪れるであろう展開が頭に浮かび、ナタリアはぞくりと震えた。

自分を抱きしめているまだ少年の彼にすら、嫌悪感がこみ上げる。

今は優しくても、彼はいずれナタリアの敵となるのだ。

部屋の入り口で何やら騒々しい声を上げているドロテとアビーすら、いつか自分を嫌うのだろうという疑心暗鬼に駆られる。

ナタリアは悪役令嬢で、嫌われるためにこの世界に存在しているのだから――。