悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

リシュタルトが療養中の今、城を取り仕切っているのはレオンで、議会に次ぐ議会で彼は大忙しだった。

その隙を狙って、ギルとともに城を抜け出す。

戦闘要員として、ユキも連れて行くことになった。

今では成人男性よりも大きな体躯のユキは、ナタリアへの忠誠心が深く、いざというとき守ってくれるだろうとギルは考えたらしい。

ユキでも乗れる大きさの大型の幌馬車を用意して、まずはトプテ村に通じる街道の入り口に停泊する。

ここで、ギルが呼んだもうひとりの仲間と落ち合う予定だった。

しばらくすると、焦げ茶色の耳と顎髭を持つ獣人が馬車の中に入ってくる。

イサクだった。

「よう! 元気だったか?」

そう、彼こそが、ギルが言っていた強力な助っ人の正体だった。

何があったかについてはすでに手紙で伝えているらしい。

「これがナタリア自慢のユキか!」

イサクは初めて見るユキに興味津々で、ためらわず頭や首をわしわしと撫でていた。

ナタリア以外には懐くことがなく、初見の人には決まって牙を剥きだすユキだが、イサクに抵抗する様子はない。

懐くまではいかないが、イサクのことはある程度信頼しているようだ。

さすが、かつての戦で名を馳せた獣操師なだけある。

「美人なドラドだな! こんなに白いのは初めて見たよ」

ガハハ、といつものように大声で笑うイサク。

美人と言われ、悪い気はしなかったのだろう。ユキは心持ち得意げに胸を張っている。

「で、リシュタルトを襲った輩を倒しに行くって?」

「はい、簡潔に言うとそういうことになります」

ギルが深く頷いた。

「あいつとは古くからの仲だ、仇討ちなら喜んで付き合うぜ。平和過ぎてなまっていたところだ、ちょうどいい」

イサクが、自信たっぷりに腕を鳴らした。

その背中には、弓矢や斧などの武器が山ほど準備されている。見るからに強そうな彼がいるだけで、なんだか心強い。

「イサクおじさん、ありがとう」

「娘のようにかわいがってるナタリアの頼みだ、断れるわけがないだろう?」

イサクが、肉厚な掌をナタリアの肩に置く。

「それにしても、頼りない面子だな。優男に、まだ子供のお姫様、そしてドラドか! こりゃ俺の実力が試される時が来たな!」

そう言ってイサクは、またガハハと豪快な笑い声を響かせるのだった。