悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

アリスはフォークを片手にポカンとしていたが、やがてさもおかしそうに大きな笑い声を響かせた。

「何を言ってらっしゃるのですか? まるで誰が陛下を襲撃したか分かっているような言い草ですわね。議会でも犯人が分からず揉めているのに何かの冗談ですか?」

「詳しくは話せないんだけど、私には犯人が分かってるの。だから大変なことになる前に、彼らを止めなきゃいけない。でも私じゃ無理なの、あなたじゃなきゃ!」

ナタリアは、アリスに必死に食って掛かった。

その間も、何の役にも立たない自分自身を改めて呪う。

(私がヒロインだったら、すぐにでもこのピンチからお父様とお兄様を救えたのに……)

でも哀しいかな、ナタリアは悪役令嬢であり、ヒロインの敵である。

ラスボスを倒せる能力などあるわけがないのだ。

ナタリアの必死の剣幕に、アリスが今度は鬱陶しそうに顔をゆがめた。

「なんだかよく分からないけど、私にできることなんてないわ。非力な女の子ですもの」

肩をすくめて、クスッとあざ笑うアリス。 

「そんなことないわ! あなたは――」

「あなたがどうにかすればいいじゃないですか。かわいいかわいいお姫様」

刺々しいアリスの言葉には、リシュタルトとレオンに可愛がられているナタリアへのやっかみがありありと感じられた。

「でも――」

「……もうお帰りになって! 私にできることなんかありません!」

アリスが叫んだとたん、彼女の侍女がずいっとナタリアのもと迫ってきた。

そのままナタリアは、ドアの外に押し出される。

バタンと激しく閉められたドアの前で、ナタリアは途方に暮れた。

(どうしよう、このままじゃお父様は――)