「ギル、頼みがあるの。トプテ村の村長が、今どこにいるか調べてくれない?」
ダスティンが投獄されたのは、いまから八年前である。
三年ほど前に王都にある牢獄から出所したことは耳にしていた。
「トプテ村の村長? ああ、あのドラドを不法に売買した罪で捕らえられていた方ですね。彼なら村に戻って大人しくしているようですよ。調査済みです」
多少の時間が必要かと思ったが、返事は実にあっさりと返ってきた。
「調べてたの? さすがギル」
ナタリアは聡明な家庭教師の存在を改めてありがたいと思った。
ギルは顎先をさすりながら、考え込むようにナタリアを見る。
「――なるほど。ナタリア様は、ダスティンがリシュタルト様を襲ったと踏んだのですか。賢いお方だ、その可能性は充分にあり得ます」
「本当にそう思う?」
ダスティンがリシュタルト襲撃に関わっているのは、ナタリアがモフ番を読んだから知っているだけであって、今のこの状況にしてみれば藪から棒といっていいだろう。
ダスティン以外にも、リシュタルトに反発している者はいくらでもいるからである。
それでもギルは、十三歳の王女の突飛な考えに深く同意してくれた。
「ええ。その線が濃厚でしょう。私としたことが、うっかりしてました。彼をもっと注意深く監視しておくべきだった」
バイオレットの瞳をほの暗く光らせながら言ったあと、「それで」とギルがこちらに向き直る。
「どうするおつもりですか? あなたはこの城から逃げたがっている。逃げるとしたら、皇帝陛下の監視の目が緩くなっている今がチャンスですよ」
ギルの言葉に、ナタリアはゆっくりとかぶりを振った。
「ごめんなさい。逃げるのは、やめることにしたの」
「なぜです? あれほど固く決めておられたのに」
「お父様を放ってはおけないもの。お父様がああいう目に遭って、本当に大事なものに気づいたの」
ナタリアの決意にみなぎる目をじっと見つめるギル。
やがてギルは、フッと柔らかく笑った。
「なるほど、そういうことですか。……それほどまで、あなたに愛されている皇帝陛下が羨ましい。では、ダスティンのもとに行きますか? 私はどこへでもあなたの行くところにお供しますよ」
ナタリアは深く頷いた。
とはいえ、ナタリアとギルがダスティンを成敗しに行ったところで、何の解決にもならないだろう。
下手をすると、リシュタルトとレオンを救うどころか、自分たちの身も危ない。
頼れるのはたったひとりだけである。
「ギル。それからあともうひとり、一緒に連れて行きたい人がいるの」
ダスティンが投獄されたのは、いまから八年前である。
三年ほど前に王都にある牢獄から出所したことは耳にしていた。
「トプテ村の村長? ああ、あのドラドを不法に売買した罪で捕らえられていた方ですね。彼なら村に戻って大人しくしているようですよ。調査済みです」
多少の時間が必要かと思ったが、返事は実にあっさりと返ってきた。
「調べてたの? さすがギル」
ナタリアは聡明な家庭教師の存在を改めてありがたいと思った。
ギルは顎先をさすりながら、考え込むようにナタリアを見る。
「――なるほど。ナタリア様は、ダスティンがリシュタルト様を襲ったと踏んだのですか。賢いお方だ、その可能性は充分にあり得ます」
「本当にそう思う?」
ダスティンがリシュタルト襲撃に関わっているのは、ナタリアがモフ番を読んだから知っているだけであって、今のこの状況にしてみれば藪から棒といっていいだろう。
ダスティン以外にも、リシュタルトに反発している者はいくらでもいるからである。
それでもギルは、十三歳の王女の突飛な考えに深く同意してくれた。
「ええ。その線が濃厚でしょう。私としたことが、うっかりしてました。彼をもっと注意深く監視しておくべきだった」
バイオレットの瞳をほの暗く光らせながら言ったあと、「それで」とギルがこちらに向き直る。
「どうするおつもりですか? あなたはこの城から逃げたがっている。逃げるとしたら、皇帝陛下の監視の目が緩くなっている今がチャンスですよ」
ギルの言葉に、ナタリアはゆっくりとかぶりを振った。
「ごめんなさい。逃げるのは、やめることにしたの」
「なぜです? あれほど固く決めておられたのに」
「お父様を放ってはおけないもの。お父様がああいう目に遭って、本当に大事なものに気づいたの」
ナタリアの決意にみなぎる目をじっと見つめるギル。
やがてギルは、フッと柔らかく笑った。
「なるほど、そういうことですか。……それほどまで、あなたに愛されている皇帝陛下が羨ましい。では、ダスティンのもとに行きますか? 私はどこへでもあなたの行くところにお供しますよ」
ナタリアは深く頷いた。
とはいえ、ナタリアとギルがダスティンを成敗しに行ったところで、何の解決にもならないだろう。
下手をすると、リシュタルトとレオンを救うどころか、自分たちの身も危ない。
頼れるのはたったひとりだけである。
「ギル。それからあともうひとり、一緒に連れて行きたい人がいるの」



