悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

意識がもうろうとする中、リシュタルトはアリスとレオンを呼びつけ、幸せになるようにと告げて命を手放す。

小説の中では、それが冷血漢として名を馳せた獣人皇帝の、愛溢れる最後の姿として描かれていた。

(この先、お父様が亡くなってしまうなんて……)

心臓をえぐれるような痛みが込み上げ、ナタリアは震えた。

「ナタリア、どうかしたか? 顔色が悪いが」

「いいえ何でもないです」

ナタリアはどうにか誤魔化すと、くれぐれも安静にするようにリシュタルトに伝え、彼の部屋をあとにする。

自室に戻ったとたん、へなへなとその場に座り込んで呆然としてしまった。

クライマックスに本格的に突入したら、ナタリアは投獄されてしまう。

城から逃げるなら今だ。

(でも、そんなこと絶対にできない)

ずっと、この世界で約束された自分の死が怖かった。

そのため幼い頃から、リシュタルトを利用して悠々自適な人生を送ろうと、懸命に画策してきた。

そのはずなのに、今は自分の死よりも、リシュタルトの死の方がずっと怖い。

『もう大丈夫だ』

ナタリアが馬車の荷台に轢かれそうになり、怯えていたとき。耳元でささやいてくれた彼の声を覚えている。

あのときじいんと染み入ったあたたかな気持ちは、今も胸に残っていた。

トプテ村で、ピンチに陥っていたナタリアを救い出してくれたときも、彼はあたたかかった。

リシュタルトの腕の中で、男の大人の人はこんなにも大きいのかと、ナタリアは目頭が熱くなるのを感じていた。

ぎこちなく頭を撫でる大きな掌。

恥じらうように目を逸らす仕草。

不器用ながらも、彼はいつもナタリアの心に寄り添おうとしてくれた。

血がつながらないながらも、父親であろうとしてくれた。

――そしてナタリアも、もうとっくに、娘として彼を愛していたのだ。