(私は――)

ナタリアが自分の気持ちに素直に目を向けようとしていたとき、ドアをノックする音がした。

「ナタリア様、治療が終わりました。陛下が呼んでおられます。どうぞいらしてください」

相変わらず殺風景な部屋の中、リシュタルトはベッドに横たわっていた。

肩口には包帯が巻かれ、額には汗がびっしり浮かんでいる。顔は血の気を失い、荒い呼吸を繰り返していた。

これほど憔悴したリシュタルトは今まで見たことがなく、ナタリアは愕然とする。

「毒を仕込んだ特殊な矢で、闇間から撃たれたのです。絶対安静の状況なのですが、どうしてもナタリア様を呼べとおっしゃいますので……」

侍従は困ったようにそう説明したあと、一歩下がった。

ベッドの周囲には、王宮医をはじめ、重鎮たちが神妙な面持ちで集っている。

「お父様……」

ナタリアはリシュタルトに駆け寄ると、シーツの上に投げ出された手をぎゅっと握った。

リシュタルトは苦しそうにしながらも瞼を開き、ナタリアを視界に収めると口元を綻ばせる。

「ナタリアか……」

声がかすれ、いつもとは違ってひどく弱々しい。

ナタリアは、姑息な手段でリシュタルトを襲った敵を心底恨んだ。