(お父様とお兄様を襲うのは誰だったっけ……? モフ番のラスト、アリスと対峙するシーンで出てきたはずよ。思い出せば、お兄様だけでも守れるわ)

ナタリアは一生懸命記憶の中から絞り出そうとしたが、どうしても思い出せない。

「ナタリア様、大丈夫ですか?」

ギルの声で我に返る。

いつの間にかナタリアは自分の部屋のダイニングチェアに座っていて、目の前には紅茶が置かれていた。

「皇帝陛下なら、きっと大丈夫ですよ。獣人は人より頑丈に出来ていますので、少々のことでは大事に至らないでしょう」

ナタリアを励ますように、ギルが言う。

「ええ、お父様は助かるわ。ただこの先お兄様が――」

「レオン様が、どうかされたのですか?」

「い、いえ。何でもないわ」

ナタリアは言葉を濁すと、犯人を思い出そうと再び頭を捻った。

だが、やはりどうしても思い出せない。

(そもそも、モフ番より話の進み具合が早いのだから、こうなることは予想できたはずよ。犯人が思い出せなくても私がしっかりしていれば、お父様はお怪我をしなくて済んだのに)

ナタリアは、自分のことしか考えていなかったことを後悔していた。

リシュタルトが大怪我を負ったと聞いたとき、奈落の底に突き落とされるような衝撃を受けたからだ。

自分の中で、リシュタルトの存在が思った以上に大きくなっていたことを知る。