獰猛化事件のあとから、城内には不穏な空気が漂っていた。

レオンに意図して興奮剤を飲ませた誰かがどこかに隠れているのだから、当然のことである。

姿の見えない敵に、皆が怯えていた。

議会では、リシュタルトの政治に反発する勢力の仕業なのではという説が有力となっていた。

獣第一主義のリシュタルトの独裁政治に反感を持っている者は、この国に少なからずともいて、ひそかに暗躍しているからだ。 

国の幹部たちが慌てる様子を、真犯人を知っているナタリアは複雑な気持ちで眺めていた。

アリスのことは注意して観察しているが、あれ以来怪しい動きをしている様子はない。

ナタリアは、モフ番よりも速いペースで進んでいるこの世界が、そろそろクライマックスを迎えようとしていることを予感していた。

ナタリアの投獄まであとわずか。

もはや、レオンを当てにしている時間すらなかった。

この際、資金援助がどうのこうの言っている場合ではない。

自分の力で獣操師の資格を取り、そして誰にも頼らず生きて行こう。

今のナタリアには、そうする道しか残されていなかった。

そしてナタリアは、ついに城を出て行く覚悟を決めたのである。